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通り過ぎたけれど、俺の中の何かが背中を押した。道の先にあった空き地でUターンして彼女の所まで戻ると、ハザードランプを点けて道の脇に車を停めてから、ウィンドウを下して窓から顔を出した。
「どうかしましたか?お怪我などされてませんか?」
俺の声にビックリしたように顔を上げた彼女の大きな瞳には、涙の滴が盛り上がっている。
慌てている彼女から話を聞くと、自転車がパンクしてしまったということだった。それを聞いた俺は、半ば強引に彼女を図書館まで送って行くことにした。
俺の車に乗っている数分間、彼女はとても緊張しているのが助手席から伝わってくる。
見ず知らずの男の車に乗せられたら、誰だって緊張するよな……。
知らない男の車に簡単に乗ったら、本当は危ないんだからな?
『仕事で近くまで行くところだから』とありもしない口実まで作って車に乗せたのは他でもない俺なのに、そんな忠告めいたことを言いたくなってしまった。
だけど緊張している彼女の顔が横目に見えて、そんなふうに怖がらせることを口にするのは止めておく。そうしているうちに、すぐに図書館に着いた。
これが俺と杏奈の二度目の接触だった。
一度目と二度目は一年空いたのに、三度目の接触はその日のうちに訪れた。
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