9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 その後、成り行きで彼女との『同居』が始まった。  彼女の『罪悪感』と『状況』をうまく利用して、この家で暮らすように持って行ったのだ。  正直言って、今までこんなに必死になって誰かを自分の側に置こうとしたことなんてない。  俺って案外『腹黒』だったんだな、と気付いたのは割とあとになってから。彼女に指摘されてやっと自覚するなんて、俺は彼女のことを少し甘く見ていたみたいだ。  杏奈は、基本俺が触れるといつも赤くなる。男との触れ合いに慣れてないことはすぐに気が付いた。  こんなふうに彼女に触れるのは自分だけなのか。そう思うと嬉しくなって、彼女が赤くなる度にもっと触れたくなってしまう。  でもうっかり近付きすぎると、途端に彼女はひどく緊張する。それ以上踏み込んでしまったら、きっと彼女を怯えさせてしまうと直感的に感じた。  おっちょこちょいで頼りなく見える彼女だけど、本当は芯が強く結構頑固なところもあるのだ。  自分が決めたことは貫く強さを持った彼女なら、俺のことを怖いと思ったら最後、きっとこの家を出ていくだろう。  そう思った俺は自分の欲をセーブすることにした。  『アンジュに触れる』レベルに抑える。  それが自分に課した制限だった。
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