9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 杏奈からハウスキーパーの佐倉さんからの伝言を聞いた時、俺は明後日が自分の誕生日だと思い出した。  いや。正確には忘れていたふりをしていた(・・・・・・・)ことを、思い出したんだ。  二年前の冬に体調を崩した祖母は、春が来るまでの間に坂道を転がり落ちるように、どんどん弱っていった。  だけどそんな祖母は最後まで、彼女のことを心配する俺を逆に心配するような瞳で見ていた。  『この家は修平にあげるわね』  ほころび始めた庭の桜を見ながら細い声でそう言った彼女に、俺は言葉を詰まらせた。  『ああ、今年もこの桜を見れてとっても幸せ。これで見納めだけど、悔いはないわ』  『祖母ちゃん…そんな弱気なこと言うなよ。俺の奥さんになる人、まだ見てないだろう?』  『うふふ、そうねぇ……。修平のお嫁さんにあなたの小さい頃の恥ずかしい話をいっぱいしなきゃね』  『な、なんだよそれ……。でも俺の奥さんと仲良くしてくれるなら、まぁいいか』  『お嫁さんも桜が好きな子ならいいわねぇ。ここの桜を一緒に見て見たかったわ』  『見れるさ』  『ありがとう、修平』    彼女はそれから一週間後の四月十三日。桜が散るのを見届け、この家とアンジュと、俺たちの誕生日を祝う言葉を遺して、この世を旅立った。
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