9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

13/21
前へ
/271ページ
次へ
   今日は祖母を亡くしてから二度目の誕生日になる。  俺は仕事をいつもより早く切り上げて帰りを急いだ。一年前の今日とは全然違う気持ちに自分でも驚いてしまう。  佐倉さんは、祖母が亡くなってからの俺が、誕生日が近付くと沈みがちになることをきちんと見抜いていたのだろう。  去年、祖母の三回忌に線香を上げに来てくれたのも、もしかしたら俺のことを祖母から頼まれていたのかもしれない。  いいかげん良い大人なのに、いつまでも佐倉さんに気を遣わせてしまうなんて情けない。それこそ、天国の祖母に叱られそうだ。  そんなことを考えながら帰宅すると、尻尾を振ったアンジュが俺を出迎えた。  いつもならアンジュと一緒に杏奈も出迎えてくれるのだけど、どうしたのだろう。  不思議に思いながらリビングキッチンへと繋がるドアを開けると、キッチン杏奈が立っていた。こちらに背を向けてじっと動かない。  「杏奈?」  声を掛けると弾かれたように振り返った彼女は、びっくりした顔をしていた。俺が帰っているのに気付いていなかったみたいだ。  喫茶店をやっている父親から教わったというハンバーグは、とても美味しかった。美味しすぎてハンバーグのお替りをしてしまうほど。  彼女はいつも「お料理は苦手」と口にするけれど、全然そんなことはない。  確かに、和食はまだまだ慣れないんだろうな、と思うこともあるけれど、味噌汁はきちんと出汁を取ってあって十分美味しいし、他の家庭料理も不味かったことはない。多分料理を教えてくれたという父親が上手すぎて、『上手』の基準が高くなりすぎているんじゃないか、と俺は密かに思っているのだ。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6097人が本棚に入れています
本棚に追加