9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 貰った赤ワインを飲みながら、にこにこと笑顔で話す杏奈はいつも以上に可愛い。  アルコールで上気した頬がピンク色に染まり、丸くて大きな目が少しトロンとしているのが、いつになく色っぽい。  ───杏奈も美味しそうだ。  向かいに座る杏奈を眺めながら、ついそんなことを思ってしまう俺も少し酔っていたのかもしれない。  お酒には割と強めの俺だけど、捻挫してからアルコールを取るのは今日が初めて。怪我が良くなるまではなるべく飲酒を控えるように、と医師に言われていたので、ここのところずっと同僚からの飲み会の誘いも断っていた。  医師の診断は建前で、本当は杏奈が待つ家に早く帰りたかったのだ。 アルコールを取らなかったのは、自分に課した『制限』を守れるか自信がなかったから、というのが本音だった。  『制限』への抑止力が薄まることを危惧してお酒を飲まないようにしていたのに、ここに来てそれを破ってしまったなんて……。  俺もずいぶん浮かれてたんだと思う。  俺はワインを飲んでしまったことを、早速後悔し始めていた。  アルコールの威力が恐ろしいほどに効いてくる。俺の自制心に――いうよりも、杏奈の破壊力に。    彼女はいつもと同じように振る舞っているつもりなのだろうけど、ハッキリ言っていつもの何倍も隙がある。  たぶんいつもは俺に対して少し『緊張感』を持って接しているのだろう。でもアルコールのせいか、彼女の雰囲気がとても緩い。リラックスしてにこにこと話す姿を見ているだけで、抱き寄せてその小さな唇にキスしたくなってくる。  ―――嗚呼、なんて美味しそうなんだ。  まるでケーキを前に、『早く食べさせて』と強請る子どもみたいだ。    これ以上は理性が持たない、と思った俺は、杏奈に「顔が赤いよ?大丈夫?」と心配する(てい)で、飲みすぎを促した。すると案の定、彼女は「飲み過ぎちゃったかなぁ」と言って水を取りに立ち上がった。  だけどその時、足をもつれさせた彼女が転びそうになった。俺は反射的に椅子から身を浮かせ、彼女に腕を伸ばした。
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