9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 部屋の灯りが全て消えた時、俺の理性の壁も消えてなくなった。  杏奈の頬にそっと唇を押し当てる。挨拶代わりの額へのキスよりも少し長く。  彼女の頬から離れた俺の頭に、彼女の手がそっと乗った。撫でようと動きかけた手がピクリと止まる。  そのまま動きを止めてしまった杏奈を、暗闇の中じっと見つめた。  彼女も俺を見つめている。少しずつ暗さに目が慣れていく中で、俺たちの瞳はしっかりと合っていてどちらとも逸らそうとしない。  甘い蜜に吸い寄せられるように、彼女の唇に顔を近付けた。  彼女の唇まで十数センチの時、杏奈の瞳の奥がかすかに揺れるのが見えた。    ―――ダメだ、踏みとどまれ…!  俺の中に残った最後の理性が警鐘を鳴らし、なんとか軌道を逸らした俺の唇は杏奈の頬をかすめ、俺の顔は彼女の肩へと着地した。    彼女のことが愛しくて守ってやりたいのに、強引に奪ってしまいたくもなる。  この気持ちの正体を、いい加減認めなければならないだろう。  俺は、杏奈のことが好きなんだ。   杏奈への思いを自覚してしまった今、一緒に暮らしていく中でいつまで理性が持つだろうか。  「まいったな……」  思わず心の声が呟きとなって漏れた。   彼女の肩に額を置いたまま「は~」と溜め息を着くと、その肩がピクリと跳ねあがった。額を持ち上げて杏奈を見つめると、やっぱり顔を赤くして瞳を潤ませている。  だから、それがやばいんだって。  心の中で突っ込むと、我ながら可笑しくなって「ふっ」と笑いが漏れた。    ちゃんとけじめを着けたら、だな。  彼女への宣戦布告は今は心の中だけに留め置くことにした。
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