9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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[3]  誕生日の晩餐会が終わり、自分の部屋へと戻ってきた。  カタカタと家の窓が鳴っている。  開け放したカーテンの間には、今は葉だけになってしまったあの桜がよく見える。朧月に照らされている葉が、強い風にあおられて今にも飛んでいってしまいそうだ。  こんな春の嵐だった―――あの夜も。  今夜は杏奈のお陰で、祖母の生前みたいな楽しい誕生日を過ごすことが出来た。  けれど、去年も一昨年も誕生日の夜は酷く不安定だったと振り返る。  祖母が息を引き取った時のことを思い出すと、今でも心の奥が締め付けられるように苦しくなって、いつもは忘れているふりをしている喪失感に襲われてしまうのだ。  この家にいる自体も辛く感じてしまい、アンジュを連れて夜のドライブに出たこともある。    春の嵐が、俺の心の奥底に眠っている感情を呼び起こす。  あの葉桜が、俺が封じているものを解き放そうとする。    庭の桜を見ているだけで苦しくなる胸を押さえた。    やっぱり今夜も眠れないのか……。  祖母の愛した桜の樹をじっと見つめながら、胸の痛みに耐えていると、ふと、杏奈のはにかむような笑顔が頭をよぎった。彼女の笑顔はいつだって俺に安らぎをくれる。  少しだけ和らいだ痛みに、瞳を閉じた。  
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