9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 どうしたら彼女を、俺の側に置いたままにできるのだろうか。  そんなことを考えていると、ふとドアの方に気配を感じた。  少しだけ開いているドアから、アンジュが鼻を出している。きっと俺の様子がいつもと違うことを察知して、やって来たんだろう。  ドアの隙間からこちらを伺うアンジュに向かって、手を差し出した。  「アン、おいで」  呼ぶと、アンジュが部屋に入って来た。  客間であるこの部屋には、アンジュが勝手に入ってくることはまずない。  よっぽど緊急性がある時には入ってくることもあるだろうけれど、基本は自分が立ち入って良い場所とダメな場所を理解していて、呼ばれない限り入ってこない。祖母が生前にそう躾けたからだ。  俺のところまでやって来たアンジュは、差し出した手に甘えるように額を擦りつけると、あごの下をペロリと舐めた。  「心配してくれてありがとうな」  そう言って撫でてやると、彼女は尻尾をゆさゆさと振る。  「アン、おまえも杏奈に、ずっとここにいて欲しいよな?」   頭から首にかけてを撫でてやっている間、アンジュは大人しくしっぽを振っていた。    アンジュは俺の様子を見て満足したのか、それからすぐに部屋から出て行った。  アンジュを見送った俺は、ベッドの中にそっと滑り込む。  俺と一緒に冷気が入ったせいで、寒そうに肩を竦めた杏奈を自分の方へ抱き寄せた。    俺たちにとって、杏奈はきっとかけがえのない家族になる。  そんな予感を感じつつ、俺は眠る彼女の額に口づけ、自分も目を閉じた。  彼女の温もりに癒されながら、俺は三年ぶりに穏やかな気持ちで誕生日の夜に眠ることが出来た。
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