10. 『恋』かどうか分からない。

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 身支度を整えてリビングに向かうと、そこにはもう散歩の準備を整えた修平さんとアンジュが待っていた。  「もう出れそう?」  「うん、大丈夫」  松葉杖を付きながら玄関に向かう修平さんに着いて行きながら、『彼の方こそ松葉杖で散歩に出て大丈夫なのかな?』と思う。  玄関で靴を履くと、(あが)(かまち)に置いてあった茶紙に包まれた物を修平さんが持ち上げた。    「お花……?」  「そう。さっき庭で摘んできたんだ」  一緒に置いてあった小さな紙袋も一緒に持ちあげてから、修平さんが松葉杖を脇に抱える。私は慌てて彼から花束を奪うように引き取った。そんな私に彼は「ありがと」と微笑んだ。  門をくぐっていつものように前の道を下る方向に体を向けた私を、修平さんは呼び止めた。    「杏奈。今日はこっち」  彼は坂の上向きを指差している。私はアンジュのリードを握って彼の後を着いて行った。  アンジュは自分の主人のことをきちんと分かっているようで、私と二人で散歩に行く時よりもゆっくりと歩く。リードを持っているのは私なんだけど、アンジュがピッタリと寄り添っているのは修平さんだった。  一緒に生活して一週間が過ぎ、彼らのことを分かってきたつもりだったけれど、思っていた以上に深い絆に感動する。  けれど同時に、『やっぱり二人にとってみたら、私は“他人”なんだよね……』と少しの寂しさを覚えた。
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