10. 『恋』かどうか分からない。

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 緩い坂道をゆっくりと上りはじめてから数分経った頃、修平さんが「ここだよ」と立ち止まった。  家の前から続く道を少し脇にそれて、細い道を入ったところにあったのは墓地だった。  大分上まで歩いて来たから、もうここは山の入口。緑に囲まれた中にあるそこは(ひら)けていて、雑草なんて見当たらないから、手入れがきちんと行き届いているのがよく分かる。  「ここは、俺のご先祖様たちの墓地なんだ」  そう言った修平さんは、いくつかある墓石の中で、いちばん手前のお墓に歩み寄って行く。そしてお墓の前にしゃがみ込んで、持っていた紙袋から何かを取り出した。お線香とマッチだ。  彼が何を始めるのか気付いた私は、彼の横に並んでしゃがんでから、風がお線香の火を消すのを防ごうと、そこに手を添えた。二人で小さな火を守るように見つめながら火をつける。  火が付いたところで、私は手に持っていた花束を墓前に備えた。    そうか、だから修平さんはお庭のお花を準備したんだ……。  墓前に手を合わせている彼のうしろ姿を、少し下がったところで見ながら、彼が朝食前にしたかったことを理解した。  なんとなくお墓参りをしている彼をじっと見つめているのは悪い気がして、私は改めて周りを見渡してみる。  高台にあるこの墓地からは、目の前を遮るものがなく瀧沢邸が良く見えた。今は葉だけになってしまっている瀧沢邸の桜の樹もよく見える。それだけでなく、河川敷までもよく見渡せた。  遠くに少しだけ見える茶色い建物は図書館かな……。  高台の思わぬ展望にひそかに興奮してキョロキョロしていると、いつの間にかお参りを済ませた修平さんが私の横に立っていた。  
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