10. 『恋』かどうか分からない。

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   「お待たせしてごめんね。きちんとご挨拶出来て良かったよ」  立ち上がりざまに振り向きながらそう言った私を、修平さんはいきなり抱きしめた。  「しゅっ、修平さん!?」  彼は無言で私を抱く腕に力を込める。    「どうしたの?具合でも悪くなった?足が痛いの??」  思いつく限りのことを訊いてみるけど、彼の腕は少しも緩まらない。しかも私の質問に答えてもくれない。  なにがなんだか分からなくて、口を噤むしかなくなった。      どれくらい黙ったままそうしていただろう。    「ありがとう、杏奈」  静かな声が頭の上から降りてきた。  「祖母ちゃんもきっと喜んでる」  「そうか、な…」  「俺も嬉しかった」  「良かった」と私が言う間に、彼の腕が解かれる。空いた空間から朝の冷たい空気が入り込んで、火照った頬に気持ち良い。  「杏奈」  少し改まった硬い声で私を呼ぶ修平さんに、顔を上げた。  瞳がぶつかる。  その目は、声と同様、いつもの柔らかさはない。  私の背中に回していた手を離した修平さんは、三十センチほど距離を開けて立っている。  彼の真摯な瞳に捕えれたように、一ミリも目を逸らすことが出来ない。  彼の口が開いて次の言葉を放った時、私はハッと息を吸い込み固まった。  「君が好きだ」  
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