10. 『恋』かどうか分からない。

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[2]      「それで?そろそろ瀧沢さんの足も治る頃でしょう?」  「はい。明日、整形外科に行って診てもらうことになってます」  仕事の昼休憩に、休憩室でたまたま千紗子さんと一緒になった。  今は二人でお弁当を食べながら話をしている。  「瀧沢さんの足はもう大丈夫そうよね」  「えっと…多分大丈夫だと思います」  「でしょうね…今朝のアレ、見ていたのは私だけだから大丈夫よ」  そう言って千紗子さんは、意味ありげにニッコリと笑う。  『今朝のアレ』を思い出して私は思わず赤面してしまった。  『今朝のアレ』の出来事とは、修平さんが私を図書館まで送って来てくれた時のことだった。    お祖母様のお墓参りのあの日、私のことを『好きだ』と言ってくれた彼は、その場で私の返事を訊かず、『俺のことを好きになって貰えるように頑張るよ』と言って、私には何も求めなかった。  私に告白して以降の彼は、なんていうか、すごく―――甘くなった。    一緒に暮らしているからと言って、それを盾に強引なことをして迫ってきたりはしない。以前の『優しい同居人』のままなのだけれど、とにかく甘い。  「可愛い」と言うのは日常茶飯事の上に、挨拶代わりに私の頭を撫でたりするのも以前よりも増えたし、唇以外へのキスも遠慮ない。私だけがいつまでもそれに慣れずに、その都度あわあわと慌てて赤面してしまう。  そんな私を見て笑う彼の瞳はやっぱり甘くて、私はその瞳に見つめられると、どうしてよいか分からなくなってしまうのだ。
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