10. 『恋』かどうか分からない。

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 日常生活に甘さが増してから、数日後の今日。修平さんは、早番で出勤する私を車で送って来てくれた。  というのも、あの日からずっと置きっぱなしにしてある私の自転車を、彼が修理に出してくれる為だった。  朝、図書館の裏口の横にある職員専用駐輪場に車を横付けにした修平さんは、颯爽と車から降りると、もう松葉杖なんか必要のないしっかりとした足取りで、そこにポツンと一つだけ残されている自転車のところ歩いていった。そして『これが杏奈のだよね?』と確認した後、軽々とそれを持ち上げてバックドアから積み込んだ。  『じゃあ、預かるね。今日行く現場の近くに自転車屋さんがあるから預けてくるよ。パンクはすぐに直ると思うから、杏奈の退勤時間までに持ってきてここに置いておくよ』  『うん。ありがとう。でも本当にいいの?お仕事の邪魔にならない?』  『大丈夫。杏奈は本当に心配性だな』  苦笑しながら私の頭を撫でる。  『俺がやりたいからやるだけ。杏奈が迷惑じゃないなら好きにさせて?』  私の頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。目の前にある瞳が甘くて、ちょっと困る。  顔が段々と赤くなってくるのを感じて、慌てて彼から離れた。  『こっ、これ、鍵』  犬のキーホルダーの着いた自転車の鍵を、彼に向かって差し出す。  『お言葉に甘えて、よろしくお願いします』  『うん。じゃあ、預かります』  嬉しそうにニコニコしながら、修平さんは差し出された鍵を私の手ごと握った。
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