10. 『恋』かどうか分からない。

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 『修平さんっ!?』  慌てる私のその手がグイッと引っ張られて、彼の腕の中に飛び込んだ。  彼はそのまま私をギュッと抱きしめてから、『お仕事頑張ってね、杏奈』と耳元で囁くと、私の耳にチュッとリップ音を立てたのだ。  『これで俺も今日一日頑張れそうだ』  そう言って颯爽と車に乗り込み、呆然としている私に手を振って去っていった。  彼が触れた耳が熱くて、まだその唇の感触が残っていて自分の手で触れることすら出来ない。  彼の車が出ていった方向を見たまま動けずにいると───。  『随分良くなったみたいで安心したわ』  突然後ろから声を掛けられてビックリして振り返った。  『ち、千紗子さん!!』  『おはよう、杏ちゃん。顔、赤いわよ』  彼女の指摘に思わず頬に手を当てる。  『さ、こんな所に立ってないで早く中に入りましょう』  背中に少し手を添えて促す千紗子さんと図書館に入ったのだ。
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