10. 『恋』かどうか分からない。

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 ***  「それで?」  食べ終わったお弁当箱を片付けてお茶を飲んでいると、突然千紗子さんがそう言った。  「はい?」  「瀧沢さんとはいつから付き合い始めたの?」  「っ!!ごほごほっ!」  今まさに飲み込もうとしていたお茶にむせる。喉に引っ掛かったお茶にしばらくの間苦しんだ。  「大丈夫?杏ちゃん」  「……っ、な、なんとか…」  「良かったわ。それで、どうなの?」  「……付き合っては、いません」  「付き合って、は?」  「ええっっと、その、実は……」  それから昼休み時間いっぱい、千紗子さんの事情聴取を受けることとなった。  『聞かれなければ黙っていよう』と思っていたわけではない。私だって、ここ数日千紗子さんと話をする機会を窺っていたのだ。  全くもって男性のことが分からない私にとって、修平さんのことを相談出来る身近な相手は千紗子さんくらいだ。でも、千紗子さんとはこの数日間、公休日やシフトが被らず、すれ違い状態になっていた。  顔を合わす時が仕事中かつ館内の人々の前、というシチュエーションばかりで、『相談』なんて不可能だったのだ。
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