10. 『恋』かどうか分からない。

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 修平さんからの告白と、その後の生活の話をひと通り話し終えると、千紗子さんが私に訊いてきた。  「お返事はまだしてないの?」  「……はい」  「どうして?彼のこと嫌い?」  「嫌いなんて……そんなことありません」  「だよね。嫌なヒトとは最初から同居なんて出来ないもんね」    「………」  「嫌いじゃないけど、恋愛としての好きではない?」  「分かりません……。私、この気持ちが『恋』どうか、分からないんです……」  自分の心臓の上に手を置いて目を閉じてみる。  彼の綺麗な笑顔を思い出すと、鼓動が少し早くなるのを感じた。  「修平さんと一緒にいるといつもドキドキします。彼が私に触れると恥ずかしくてすぐに赤くなってしまうし、笑いかけてくれると嬉しくなる。……でもそれが彼のことを異性として『好き』ってことかよく分からないんです」  「杏ちゃんは今まで誰かを好きになった時は、そういう気持ちにならなかった?」  「今まで……」  そこで黙ってしまった私を不思議そうに見た千紗子さんが、「もしかして」と聞いてくる。  「杏ちゃんは初恋って、」  「いえ、初恋は経験してます」  『初恋もまだなのか』と思われたことに少し羞恥心が湧いて、慌てて否定する。  「私の初恋は小学二年生の時です」  「あら、意外と早いわね?」  「千紗子さんっ!!」  千紗子さんがからかうように笑うから、思わず頬を膨らませてしまう。    私だって、それなりに初恋ぐらい済ませてます!  心の中で文句を言うだけに留めたのは、私の初恋話を聞きたそうな瞳と目が合ったから。
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