10. 『恋』かどうか分からない。

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 「初恋の相手は年上の男性でした」  「あら、素敵。『男の子』じゃなくて『男性』と言うことは相手は大人だったってことかしら?もしくは当時のあなたから見たら『大人』に見えたヒト?」  コクン、と首を縦に振る。  さすが千紗子さん。洞察力がすごいよ……。  「はい。相手は二十二歳くらいでした」  「『青年』ね」  「彼はよく私と遊んでくれました。すごく優しくて、彼の大きな手で頭を撫でられると嬉しくて、子ども心にドキドキしてました。いつも私が『大好き』って言うと、彼も『俺も好きだぞ』って言ってくれて……」  「その人とは?もしかして幼い杏ちゃんを誑かして……」  「いえ、誑かしたりなんてしてません。彼の言う『好き』は私の『好き』とは違うんだ、ってある日気づいたんです」  「それって、杏ちゃんが失恋したってこと?」  「そう、なりますね……その人は私が小学三年生の時に私の母と結婚して『父』になったんです」  千紗子さんの大きな瞳が、更に大きく開かれた。
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