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「謝って済むことではありませんが、本当に申し訳ありませ、」
「そんなに謝らなくても大丈夫」
私がすべての言葉を言い終える前に瀧沢さんはそう言った。その声は朝聞いた時よりも少し低め。思わず顔を上げたけれど、瀧沢さんがこちらに顔を向ける様子はない。
「でも―――」
私が言葉を続けようとした時、タクシーが停車し目的地に着いたことが分かった。
タクシーが横付けしたそこは、立派な門をかまえた「お屋敷」だった。
閑静な住宅街の中にあって、その重厚な趣は今どきの新興住宅街とは一線を画している。
大きな門の両側には立派な塀が続いて、その向こう側はまったく見ることが出来ない。背の高い樹の上部を所々見ることが出来るくらいだ。
私が先に下りて瀧沢さんの降車の手助けをして、そのまま彼が家に入るまで付き添うことにした。
大きな門をくぐった瞬間、圧倒された。
「すごい…」
そこには思ったよりも大きな家屋があった。
大きさの割に圧迫感はないのは、平屋造りで高さがあまりないからだろう。もう午後7時を回り暗くなっているにもかかわらず、家の外観が良く見えるのは庭に立っているいくつかの街灯のおかげだと思う。
門はあんなに「ザ・日本家屋」という感じなのに、家自体は北欧調の現代日本家屋といった佇まいだった。
そんな中でも一際美しく、私の目を釘付けにしたのは、庭の中ほどに植えられている桜の木だった。
大きく張り出した枝一面に薄桃色の花びらを咲かせたその木は、薄紫の闇の中でライトアップされていて、「美しい」を通り過ごして「神々しい」ほど。
「こんな美しい桜、見たことない……」
思わず口から感嘆の言葉が漏れた。
わたしはただただその桜を食い入るように見つめ続けた。
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