10. 『恋』かどうか分からない。

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   少し考えこむようにしていた千紗子さんが、「じゃあ、それ以降は?」と聞いてきた。  「………ありません」  「え!?」  「初恋以降、誰かを好きになったことはないんです」  私がそう言うと、千紗子さんは思い切り目を丸くした。二の句を告げないみたいだ。    初恋は叶わなかったけど、私には恋をする必要なんて無かった。父が私のことを可愛がり甘やかしてくれたから。社会人となった今だって、父と出かける時には腕を組むこともある。  少しだけ黙っていた千紗子さんが、「ふぅ~」と短く息をついた  「私の意見じゃあまり参考にならないかもしれないけど、」と前置きを付けてから言った。  「初恋が実らなかったのは残念だけど、でもちゃんと『ドキドキ』したり『嬉しかったり』したんでしょ?小さな頃にそうだったから今も『ドキドキ』は恋の入口じゃないかしら?でも、初恋と違う気持ちが芽生えたら本当の『恋』になるかもね」  「違う気持ち……?」  「そう、『嫉妬』とか『独占欲』とか。『彼を他の人に取られたくない』と思ったら、それはやっぱり『恋』じゃないかしら?」  「他の人に取られたくない……」  頭の中に一瞬、綺麗で大人なあの女性(ひと)が浮かんだ。  (どうして葵さんが…?)と思った時、千紗子さんが言う。  「他の誰かに譲ってあげられるくらいなら、それは『大人の恋』ではないと思うわ」  「……考えてみます」  私は千紗子さんが言ったことを、しっかり頭に置いておこうと思った。
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