10. 『恋』かどうか分からない。

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 あの後、私の顔は赤くなってすぐ青くなって、大変だった。周りの先輩たち(主に女性)の視線が痛くて、誰とも目を合わせられないくらい。  来館者の方がいる手前、その場で質問攻めにされるということは無かったけれど、終業後に捕まってはイチコロだと思った私は、勤務時間が終わると同時に、ダッシュで図書館を逃げるように出たのだ。  そりゃ、あんなモデルか俳優みたいに素敵な男性が、私なんかに親密にしていたら、誰だって気になるもの…。  修平さんも修平さんだよ。あんな目立つところで、意味深なことしなくても!  彼は善意でしてくれたんだろうから完全に私の八つ当たりなのだけど、それでも心の中で彼に文句を言わずにいれない。  久々の愛車のペダルを漕ぎながら、瀧沢邸に帰った。 ***  「おかえりなさい」   夕飯の時間に帰宅した修平さんを出迎える。少し口を尖らせて出迎えの挨拶をする私を見て、彼は不思議そうに首を傾げた。  「どうしたの、杏奈。なんか怒ってる?」  「怒っては、ない、けど……」  「けど?」  「私、次に出勤するのが怖いよ……」  「なんで?」  「なんでって!修平さんが皆の前であんなことするから!」  頬を膨らませて抗議すると、彼は「あはは」と笑う。  「別に、聞かれたら本当のことを言えばいいんじゃないかな?」  「本当のことって!そんなこと言えないよ……」  「どうして?俺と噂されるのは嫌?」  「そうじゃなくてっ!……」  なんて説明していいか分からなくなって、私はとうとう言葉を詰まらせた。  黙って俯いてしまった私の顔を、修平さんが覗き込んでくる。  「言って、杏奈。杏奈が不安に思ってることは何でも教えて欲しいな」  髪を撫でながら優しく言われて、私はおずおずと言葉を選んで話し始めた。  
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