10. 『恋』かどうか分からない。

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 「私みたいな子じゃ、修平さんには合わないって思って……」  俯いたまま彼と目を合わせずに言う。  「私は地味だし綺麗じゃないし、スタイルだって良くないし……」  言いながら脳裏を『葵さん』の姿がよぎる。  「それにおっちょこちょいで仕事も全然出来なくて……葵さんみたいな女性なら、」  「ちょっと待って」  私の言葉を遮った修平さんの声が硬い。少し怒っているようなその声に、私は俯いたまま、目線だけを上げた。    「なんでそこで葵の名前が出るの?」  「……」  「確かに葵は仕事が良く出来るし、見た目も悪くない」  彼の口からはっきりとそう断言されて、分かってはいたけど少しへこむ。  「でも、俺が好きなのは杏奈だよ。葵じゃない。彼女はただの同僚だ」  さらにキッパリと言い切った彼の言葉に、思わず顔を上げた。真剣な瞳とぶつかる。  「いくら自分の事だからって、俺の好きな子のことを悪く言って欲しくない」  ドキンと大きく心臓が跳ねて、鼓動が急に速くなる。  「杏奈はいつも十分すぎるくらい可愛いし、確かに少しおっちょこちょいなところもあるけど、それだから見ていて飽きないし、ちょこまか動く姿は可愛すぎるくらいだ。仕事のことは俺は良く分からないけど、まだ二年目だからこれから色々覚えていけばいいよ。何より杏奈はいつも楽しそうに仕事をしているから、利用者としては質問しやすくていいと思う」  一気にそう捲し立てられて、私は目を丸くする。  そんな私を見て、「は~~~っ」と大きく溜め息をついた修平さんは、少しの間まぶたを閉じて黙っていた。  そしておもむろに目を開けると、私を見つめて口を開いた。  「俺のことはゆっくり考えてくれたらいいかと思っていたけど、計画変更する」  それからあまり見たことのない意地悪そうな微笑みを浮かべて、  「覚悟してね、杏奈」  と言った。
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