11. 「すきです」

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***  午後四時四十分。待ち合わせの時間までまだ二十分もあるというのに、私は修平さんとの待ち合わせの場所に立っていた。    アンジュの散歩は午後一番で済ませた。餌も留守番用のタイマー付きフードトレイにセットしてきたし、お水もたっぷり補充した。  修平さんは駅まで来る時はタクシーを使うようにと、お金を置いて行ってくれたけど、思っていたより早く準備が済んだ私は、近くのバス停からバスに乗って駅までやって来たのだ。それでも随分と時間が余ったので、駅に隣接するショッピングビルを見て回っていた。  おかげで良いもの買えて、我ながら満足。  手に持ったベージュのバッグの中に忍ばせたそれを思い浮かべると、自然と頬が緩んだ。  「いいことでもあったの?」  突然頭の上から聞きなれた声が降ってきて、慌てて顔を上げたらすぐ目の前に修平さんが立っていた。    「しゅ、修平さん!」  「随分早かったね、杏奈」  優しい瞳で私を見下ろす彼の距離がいつもより近い。まるで私を誰かから隠そうとしているみたいに。  壁になった彼の向こう側に、通りすがりに振り向く女の子達の姿が映った。それも一人だけじゃなくて、何人もの女性が振り向く。  私は、多くの女性たちの視線を釘付けにしている彼に視線を戻した。  薄いブルーのボタンダウンのシャツに、光沢のある紺地に金色のストライプのネクタイ。朝家を出る時には腕に掛けていたジャケットを、今は前を開けて羽織っている。  はいているグレーのパンツはセンタープレスもピッチリと入っていて、スラリと伸びた長い脚がより長く見えた。  仕事と病院を済ませた後とはとても思えないほど爽やかな上に、働く男性の色気を纏う彼に、私の心臓は早速(せわ)しなくなっていく。
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