11. 「すきです」

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 「杏奈、可愛い」  修平さんが覗き込むようにして更に顔を近付けてくるから、反射的に少し身を引いた。  私は今日の装いを迷いに迷った末に、春先に買ったピンクベージュのワンピースにした。  全体を同色のレースで覆われたこのワンピースは、お腹の前でリボンベルトを結ぶと、膝丈のスカートがふんわりと広がってとても女の子らしいシルエットになる。  袖は桜の花びらみたいなフリルがついているフレンチスリーブなので、上からトレンチコートを羽織ってきた。足元は、普段は仕事がらローファーばかりなのだけど、折角なので今日はシャンパンゴールドの五センチヒールのパンプスだ。  いつもは後ろで一つにくくるだけの髪も、ゆるく巻いてハーフアップにしたし、メイクもいつもよりはちょっとだけ、濃い目にしてしまったから、それがいいのか悪いのかすら自分では判断できずに不安になる。  ひとまず修平さんが「可愛い」と言ってくれたのでホッとした。恥ずかしい気持ちはもちろんあったけれど、今日は『とにかく一緒にいる彼に恥をかかせてはいけない』という気持ちの方が強い。  「ダメだ……」  「えっ!どこか変なとこがある!?」  慌てて修平さんに「どこか教えて!」と言おうした矢先。  「杏奈が可愛すぎて誰にも見せたくない」  目の前の彼の腕が伸びてきて、私の肩を抱き寄せた。目の前が彼のシャツとネクタイだけになってしまった私は、ハッとする。  「しゅ、修平さん!ここ外!みんな見てるからっ!」  「うん。男たちがみんな杏奈を見てる」  「違うから!!」  焦って彼の胸を両手で押し返そうと突っ張ると、思ったほどの手応えもなく彼の体が離れる。  ホッと肩を下した途端、私の額に「ちゅっ」とリップ音が立った。  「今日の杏奈のお洒落は俺の為だよね?」  小首を傾げて問う彼の瞳が甘い。  胸がドキドキと高鳴って、彼の唇が触れた額だけじゃなく、顔全体が熱くなっていた。  「も、もう行こう!で、電車がちょうど来るみたいっ」  改札の電光掲示板を指差しながら、彼の腕を引っ張る。  「そうだね、じゃあ行こうか」  彼はそのままするりと私の手を握って指を絡めた。  「しゅ、しゅうへ…」  「乗り遅れるから、早く」  そのまま改札をくぐってホームへと足早に向かった。
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