11. 「すきです」

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 電車の中でもずっと手を繋がれたままだった。  夕方の車内は、ほどほどに込み合っていて、手を繋いだままだし修平さんとの距離は近いし、私は心臓の音が周りの人全員に聞こえているのではないかと思って顔が上げられない。  時折、彼は絡めた指で私の指の間を擦るから、叫び声が口から出そうなのを堪えるのにも必死だった。  なんの、罰ゲームなの!?  羞恥に耐えきれなくなって、彼を睨もうと目を尖らせて顔を上げると、彼の瞳がびっくりするくらい甘くて、返り討ちにあったように、たちまち顔が赤くなった私は、すぐに顔を伏せたのだった。  車内にいた十分間ちょっとが、気が遠くなるほど長く感じた頃、目的の駅に着き、私たちは電車から降りて改札口から外に出た。  ここは、私たちの住む県の主要都市の一つだ。私の実家からも快速で三十分くらいで来れる為、実家に居た頃には家族や友人と時々来たりしていた。  手を繋がれたまま修平さんの進む方について行く。彼が足を止めたのは、駅のすぐ目の前。全国的にも名の知れた高級ホテルだった。  「こ、ここ…!?」  戸惑う私のことなどお構いなしに、彼はドアマンの開けた扉から堂々と中に入って行く。手を繋がれている私はそれに従うしかない。  豪華なシャンデリアの下がった吹き抜けのホールを横切って、エレベーターの前に立つ。すぐにやってきたエレベーターに乗り込むと、彼は【28】のボタンを押した。  ドアが閉まると、エレベーターはグングンと上昇を始めた。  
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