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黙っている間に、テーブルにデセール(デザート)とデミタスコーヒーが運ばれてきた。
デミタスカップを持ち上げて鼻から香りを吸い込むと、深煎りされた豆の芳ばしい香りが鼻に抜ける。カップに口を付けてコーヒーを口に含んでから、その苦みと酸味のバランスを確かめる。飲み込むときにまた鼻に抜ける香りからは甘みを感じた。
「流石だね」
「え?」
カップから目を上げると、じっと観察するような修平さんの瞳がある。
「コーヒーカップを持った瞬間、『プロ』の目になったよ」
「『プロ』だなんて、大げさだよ……」
「でも、コーヒーのテイスティングをする専門家みたいだったよ?」
「専門家、って……なんか恥ずかしいな。そんなんじゃないけど、父からコーヒーの淹れ方を教わるようになった頃に、いろんな喫茶店とかコーヒー専門店巡りをして自分なりに研究したから、その時のクセが残ってるのかも」
「そうなんだ。杏奈は昔から真面目なのは変わらないんだね」
「真面目なんかじゃないよ。はまっちゃうと周りが見えなくなって、凝りすぎるのが悪いとこなの……」
「くすっ、杏奈らしいな」
微笑ましいとばかりに細めた目で見つめられると、恥ずかしくていたたまれなくなる。
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