11. 「すきです」

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 「ところで、杏奈のお母さんは何をされてる方なの?」    突然思わぬところに話しを振られてびっくりする。  「お父さんが喫茶店をされてる話は良く出てくるけど、お母さんがどんなお仕事をされてるか聞いてなかったな、と思って。お忙しくされてるって聞いたからお仕事をされているのかな?お父さんの喫茶店を手伝われてるとか?」    「ううん、喫茶店をやってるのは父だけ。母の仕事は……出版関係…だよ」  「そっか、それならとても忙しいんだろうな。俺の友人にも出版社に勤めてるやつが居て、ものすごく忙しそうにしているよ」  「そ、そうなんだ。大変だね」  「出版関係、と言えば……」  一旦言葉をそこで釘った修平さんが、テーブルの下のクロークバスケットの中から紙袋を持ち上げた。  「遅くなってしまってごめんな。これ、」  紙袋の中から取り出したものを両手で差し出されたので、何も考えずに手を伸ばした。  両手に、昔から馴染んだ感触が伝わる。  渡されたそれを見て、目を見張った。  「こ、これ!!」  私の手の中には、私が一番大事にしていた『宝物』があった。  
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