11. 「すきです」

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 その表紙をそっと撫でる。  最後に触れた時にはぐっしょりと水気を含んでいたその本は、今は元の質感に戻っている。表紙の『たからものをみつけに』という文字は少し滲んでいるところもあるけれど、読むには問題ない。  恐る恐るめくってみると、表紙と同様に中身もきちんと読める状態になっていた。  「仕事先の方が、前に本の修復を専門業者に頼んだことがあるって聞いたことがあったから、紹介してもらったんだ。腕のいい業者さんだって聞いていたんだけど、残念ながら百パーセント元に戻すことは出来なかったよ……。せっかく預けてくれたのに、ごめんな、杏奈」  胸の中で抱きしめるように『宝物』を抱えたまま、首を両側に振る。   俯いたまま顔が上げられない。    修平さんに、きちんとお礼をいわなくちゃ……。  心の中ではそう思っているのに、唇がわなないて開くことすらままならない。  みるみる瞳が涙の膜に覆われていくのを感じて、唇を噛んでそれを堪えた。  「あり、が、とう…」    顔を上げてそれだけ言うと、私の瞳から大粒の涙がポロポロと溢れ出した。  「杏奈…」  「うう~~っ」  『宝物』がこんなに綺麗になって戻ってくるなんて思いもよらなかったから、嬉しすぎて感極まってしまい涙が止まらない。大声で泣きたいくらいだけど、ここは外だから我慢する。それでも漏れ出る嗚咽を堪えることは出来なかった。  手元にあるナプキンで涙を押さえていたけれど、止まることのない涙に厚手のナプキンがしっとりと湿っていく。
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