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しばらくの間、泣き続ける私を黙って見守ってくれていた修平さんが、いつまにか私の横に立っていて、その手を私の背中にそっと添えた。
「杏奈、立てる?そろそろ出ようか」
労わるように声を掛けられて、促されるまま席を立つ。泣きすぎたせいで、瞼が熱くて痛い。頭もズキズキとしてくるので、私は俯いたまま修平さんに肩を抱かれるようにして、ゆっくりと彼の誘導に従った。
レストランを出てエレベーターに乗る。動き出したエレベーターの中で私たちは無言のままだった。
「ポンっ」という音で、エレベーターが停まったのが分かる。修平さんに促されるままにエレベーターを降りた。
すでに腫れ始めた瞼が痛いけれど、足元を見る為に何とか開いている瞳に映る景色に、私は違和感を感じた。
その違和感を確かめたくて、足元から顔を上げる。
「ここは……」
最初に通ったエントランスホールに着いたとばかり思っていたのに、そこは客室フロアーだった。エレベータ―ホールから両側に伸びた廊下には、赤い絨毯が敷き詰められ、部屋番号のプレートのついた扉が等間隔にならんでいる。
「しゅ、修平さん!?」
彼の顔を勢いよく振り仰いだ。
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