11. 「すきです」

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 そっと手を引かれて赤い絨毯の上を歩く。静かに進んだ廊下の突き当たりにあるそのドアの前で、彼の足が止まった。  「これ」  その手には目の前のドアのプレートに書かれている番号と同じ数字の入ったカードキーがある。  修平さんは私にそのカードと私のバッグを手渡し、頭をひと撫でする。  「落ち着いたら携帯に連絡して。俺はホテルのバーにいるから。眠たかったら寝てしまってもいいよ」  そう言って踵を返した彼の手を、私はとっさに掴んだ。  ピタリ、と彼の動きが止まる。  ゆっくりと私の方を振り返った彼の顔には、驚きと困惑が表れていた。  「杏奈…?」    顔だけ振り向いた彼は、体をこちらに向けることはせず、真意を問うように私の名前を呼んだ。  「いかないで……」  口の先っぽだけで呟く。小さすぎる声は彼の耳には届かない。  「え?」  「い、行かないで。…渡したい物があるから、一緒に来てほしいの」  今度は彼の耳に私の声が届いたようで、彼は私の方に体を向け直した。  「ここで受け取るのじゃ、だめかな?」  「中で、渡したい…」  「杏奈……いくら俺でも、一緒に部屋に入ったら、『紳士』なままではいられないよ…」  困ったように眉を下げた修平さんの、瞳の奥が揺れている。  彼は私が握った手を、そっと反対の手で解こうとした。  けれど私は、それに抗うように、彼の手を握る手にギュッと力を込めた。
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