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玄関の扉を鍵を開けて中に入る前に、瀧沢さんは私の方に体を向けた。
「もうここまでで大丈夫だよ。病院から自宅まで付き添ってもらったから十分。図書館の方の説明も分かったし、これ以上は手伝って貰わなくても大丈夫だから」
さっきと変わらず優しい言葉なのに、きっぱりとこれ以上私が関わるのを拒否する言葉に血の気が引く。
やっぱり、瀧沢さんは怒っていたんだ。しかも事故にかこつけて家まで乗り込んだ女だと思われたのかも！？
親切にしてあげたら、やましい気持ちでついて来られた、そう思われていたらどうしよう……。
そう考えたら、頭から湯気が出そうなくらい恥ずかしかった。あまりの動揺に目にみるみる涙が溜まっていく。
「え…どうしたの？どこか具合が悪い！？もしかして……階段から落ちた時にどこかぶつけていたとか！？」
「ち、違うんです私…そうじゃないんです。瀧沢さんに邪な気持ちで近づいた訳じゃなくて…私の運勢が最悪なばっかりにあなたを巻き込んでしまって怪我までさせて……怒らせてしまって……」
最後の方は涙声できちんと説明できなかった。
俯いた足元に、ぽたぽたと落ちる涙が丸い染みを作る。
ガタンッ
何かが地面に落ちる音がした次の瞬間―――私は瀧沢さんの右腕に抱き寄せられていた。
「―――泣かないで」
温かい、今日だけで何度目かになる爽やかな香りが柔らかく私を包む。
その足元に転がっているのは一本の松葉杖。
「よく分からないけど、俺は君に一度も腹を立てたりはしていないよ」
耳のすぐそばでそう囁かれて、体が一瞬ビクっと跳ねた。
さっきまで勝手に溢れ出ていた涙は、驚きのあまりピタリと止まり、彼の息遣いを感じて耳が燃えるように熱くなった。
「あ、あの…離して……わたし、その……」
しどろもどろにそう言う私を右腕で囲ったまま、彼は私の顔を首を傾げるように覗き込んでくる。
目が合うと彼は、「涙止まったね」とにっこりと笑った。
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