11. 「すきです」

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[2]  ドアを開いた修平さんが、滑り込むように部屋に入る。  繋いだままの手を強い力で引いた彼は、私を部屋に引き込むと、ドアに私を押し付けた。  閉まりかけていたドアがバタンと音を立てたのと同時に、視界が彼の体でいっぱいになる。修平さんが片腕で私の腰を抱き、もう片方の腕でドアの間に私を封じ込めたのだ。  「しゅっ、」  驚いて顔を上げると、これまで見たことのない熱のこもった瞳が、私を見下ろしていた。  ハッと息を呑んだ瞬間、唇に温かいものが触れた。  しっとりと柔らかいそれが『彼の唇』であると、理解するまでの時間、瞬き三つ分。  見開いた目に映るのは、瞳を閉じた彼の長い睫毛。  柔らかな唇が、ぴったりと私の唇に合わさっている。  わたし…しゅうへいさんと……キス、してるの…?  あまり突然のことに、身じろぎすることも出来ない。  目の前の瞳がゆっくりと開かれると、目と目が合わさった。  開かれた瞳は、妖しい輝きを宿している。  少しだけ、触れるか触れないかぐらいに唇を離した彼が、そっと口を動かした。    「目を閉じて、杏奈」  彼が話すと唇の先がかすかに触れ合う。  そのくすぐったいような、もどかしいような感触に体が震えた。  私の腫れぼったい瞼の上に、彼は一つずつ優しい口づけを落とした。  彼の唇が瞼に触れて、反射的に瞳を閉じる。  再度、修平さんの唇が重なった。
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