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修平さんの背中が大きく跳ねてから、動きを止めた。
ドアノブに手を置いたまま、私の方を振り返らない。彼の背中からは『拒絶』が感じられる。
私がグズグズしてたから…ううん、最初から修平さんの『好き』は私が思っていたのとは違ったのかも……。
初恋の二の舞の予感がして、胸が苦しくなる。
悲しくて、苦しくて、思わず顔を両手で覆って俯いた。
「いかないで…わたしのこと、なんとも思ってなくてもかまわない……」
『なんとも思ってなくてもかまわない』なんて全然嘘。
だけどもし、ここで彼を部屋から出してしまったら、何かが変わってしまう予感がして、たとえ嘘でも彼を引き止めたくて仕方なかった。
もしかしたらもう彼は、こんな泣き虫で頼りない私より、葵さんみたいにしっかりした女性の方がいいと思ったかもしれない。
修平さんが葵さんのところに行ってしまったら……。
そう考えただけで、胸が張り裂けそうな痛みに襲われて、私はやっとこの時初めて千紗子さんに言われたことを理解した。
自分が修平さんのことが好きだから、他の女性のところに行ってほしくないのだ、と。
(今頃そんなことに気付くなんて……きっと遅すぎたんだ……)
そう思ったらどんどん涙が溢れ出して、顔を覆った指の隙間からこぼれ落ちる。
「ううっ……、っく、ひっく……」
涙と一緒に嗚咽も漏れ始めた。
その時、私の体が温かいものに包まれた。
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