11. 「すきです」

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 いつのまに、この香りに落ち着きを覚えるようになったのだろうか。もう随分と馴染んだシトラスの香りに包まれている。  「杏奈、泣かないで。俺を見て」  弱々しい声でそう乞われて、涙に濡れたままの顔を両手から少し上げると、困ったような、戸惑っているような、そんな修平さんの瞳が私を見下ろしていた。  彼は私の体を緩く囲ったその腕をひとつだけ(ほど)いて、その手で私の涙を拭う。  「俺のこと、嫌いになったんじゃないの?」  悲しそうな瞳でそう問われて、私は勢いよく大きく頭を左右に振った。  「杏奈こと、泣かせたのに?」  今度は小さく横に振る。  「もう一度……聞かせて、杏奈」  彼の瞳が懇願するように揺れる。  「お願い、杏奈」  「すき、です。修平さんのことが好き」  今度こそ彼の目を見て、しっかりと気持ちを口にした。
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