11. 「すきです」

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 「夢みたいだ…嬉しいよ、杏奈」  少年のような大きな笑顔を見せる修平さんの頬がほんのりと赤い。  彼は私を一度ギュッと強く抱きしめてから、一旦体を離し、自分の額を私の額にコツンと合わせた。    「俺も杏奈のことが大好きだ。俺のことを好きになってくれてありがとう。杏奈のこと、絶対に大切にする」  近距離で見つめる彼の瞳が甘いのに穏やかだ。さっきまでの獰猛さは消えていて、私のことを愛おしそうに優しく見つめている。    自分の気持ちを自分で理解したのは、その想いを口にした時だった私は、まだ状況について行けずに、呆然としていた。  そんな私に、額を合わせたまま彼が尋ねた。  「キスしても、いいかな?」  「え?」  「さっきは無理やり杏奈のファーストキスを奪ってごめん…。やり直しが効くなんて思ってはいないけど、俺との最初のキスを嫌な思い出にしてほしくないんだ………ダメ、かな?」  『キスのやり直し』  思ってもみないお願いに、顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。  こんな素敵な男性に、子犬みたいに首を傾げながらそんなお願いをされて、「ノー」と言える女の子がいたら見てみたい。  かと言って素直に「イエス」と言うには経験不足の私は、自分が出来る唯一の肯定を態度で表す。  彼を見つめる目を、自分からそっと閉じた。  閉ざされた視界の向こうから、修平さんの「ありがとう」という声が聞こえてすぐに、私は唇に温かくて柔らかいものを感じた。  そっと重ね合わせただけの口づけなのに、唇同士の甘やかな触れ合いに心ときめく。高鳴る胸の音は、密着した彼には届いているかもしれない。  長く続く口づけは、唇同士が触れ合うだけのものなのに、私の体はゆるゆると溶かされていった。  
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