12. 全然足りない。

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 ロビーを通ってホテルのエントランスに出ると、停まっていたタクシーに私を乗せた修平さんは、開いたドアから瀧沢家の住所を運転手さんに告げる。そしてタクシーチケットなるものを運転手さんに手渡し、私の方を向いて口を開いた。  「今夜は職場に泊まり込みになるかもしれないから、杏奈は先に休んでて。疲れたでしょ?これから数日間は忙しくなりそうだから、アンジュのことお願いできるかな?」  「もちろんだよ。アンジュのことは私に任せて。修平さんも無理はしないでね」  「ありがと。じゃ、おやすみ杏奈」  かすめるように素早く唇を合わせた修平さんがタクシーから離れると、ドアが閉まり、動き出した。  窓の向こうで手を振る彼に、ほんのり頬を赤くしたまま手を振りかえす。  すぐに彼の姿が見えなくなり、車窓から夜の街をぼんやりと眺めながらこの数時間のことを振り返った私が、赤くなったり目を潤ませたりしているうちに、タクシーは瀧沢邸に到着したのだった。 ――――――――――
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