12. 全然足りない。

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***  カーテンの隙間から差し込む光に、朝が来たことを知る。  重たい瞼を開けると、ぼんやりとした視界に映る景色がいつもと違っていた。  「ここは……」  うっすらと見覚えのある景色。  天井まである大きな本棚、スタイリッシュなデスクの上にはデスクトップ型のパソコン、座り心地の良さそうな革張りの椅子。  私が使わせて貰ってる来客部屋のものよりも大きなベッドに、一人で寝ていた。  「ここ、修平さんの部屋?」  ぐるりと見渡しても、部屋の主は見当たらない。  「なんで??ゆうべは……」  寝ぼけ眼を擦りながら、昨夜の自分の行動を振り返った。  一人で瀧沢家に帰り着いた私に、留守番をしていたアンジュが嬉しそうにすり寄って来て、彼女をひとしきり撫でてやった。  よそ行きの服を脱いで、お風呂でさっぱりとした私は、冷蔵庫の中で作っておいたアイスティを持ってリビングのソファーで、図書館から借りてきた本を見るとは無しに眺めていた。  『先に休んでいて』と修平さんに言われたけれど、いろんなことがあった今日、神経が高ぶっているのか、とてもすぐには眠りにつけそうにはない。しかも、なんとなくこのまま眠ってしまったら、全てが夢になってしまいそうな気がして、すぐにベッドに入ることが躊躇われた。  『ちょっとだけ……これを読んで、眠くなったら部屋に戻って寝るからね?』  リビングのいつものクッションで寛いでいるアンジュに向けて言い訳をする。彼女の尻尾が二三度揺れて、耳がぴくぴくと動いた。  
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