12. 全然足りない。

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 ―――とそこまでの記憶はある。  目が覚めたらソファーの上だった、と言うなら納得が行くのだけど……。  主のいない部屋にいるのが、なんとなく居た堪れなくて、ベッドから降りてリビングへと向かった。    リビングに行くと、アンジュが朝の挨拶をしに尻尾を振ってやってきた。  「おはよ、アンジュ」  アンジュの頭を撫でながら、いつものように挨拶を返すと、「早く散歩に行こうよ」とばかりに尻尾を振って頭を擦り付けてくる。  「もうちょっと待ててね」  もう一度頭を撫でてやってから、ダイニングテーブルの方に歩いて行くと、そこに何かが書かれた紙が置いてあることに気付いた。 ――――――――――――――――――――   杏奈へ   おはよう。よく寝られたかな?   ソファーで寝ると風邪を引いてしまうからダメだよ。   俺はもう仕事に行かないといけないんだ。   今夜も遅くなると思う。   しばらくは俺の夕飯は要らないよ。いつ帰れるか分からないからね。   杏奈は俺のことは気にせず、しっかり休んで。      もし聞いてもらえるなら一つお願いがある。   遅く帰っても杏奈の顔が見たい。   杏奈が嫌でなければ、これからは夜は俺の部屋で休んでほしい。   無理にとは言わないけど。   修平 ――――――――――――――――――――  手にした紙に書かれている文面を見て、昨夜ソファーで寝てしまった私を、修平さんが自分の部屋に運んだのだと知った。  「全然気付かなかったよ…」  帰宅するとソファーで眠っている私を見付けて、自分の部屋まで運んでくれた彼は、その後いったいどうしたのだろう…  同じベッドで寝た?それとも別の所で?もしかして眠らずにまた仕事に行ったの??  疑問だらけの彼の行動に、頭をひねった。けれど、答えなんて分かるはずもなくて、諦めた私はいそいそとアンジュの散歩に出る準備を始めたのだった。
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