12. 全然足りない。

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[2]  図書館で一緒の勤務になった千紗子さんに、お付き合いを始めたことを報告すると、彼女はその綺麗な顔を優しげにほころばせ、「良かったわね」と言ってくれた。  それから今の現状を手短に報告すると、「あらあら……瀧沢さんも大変ね」と同情的な瞳で言う。  「そうなんですよ、お仕事のトラブルが早く解決してくれるといいんですけど……あんまり寝てないみたいですし……」  彼の体調がとにかく心配な私がそうぼやくと、千紗子さんは「くすくすっ」と笑った。  「確かにそれも大変ではあると思うけど、瀧沢さんがもっと大変なのは違うことじゃないかしら?」  「え?まだもっと大変なことがあるんですかっ!?どうしよう…私何にも手伝ってあげられない……」  彼が仕事以上に苦労していることがあるなんて、思ってもみなかった。  眉を下げた私に、千紗子さんは意味深な笑顔を見せる。  「うふふふふ、瀧沢さんも大変ね。杏ちゃんは可愛すぎるわ」  「え?」  「大丈夫よ、杏ちゃん。あなたはとりあえず瀧沢さんのお願いを聞いて、彼の部屋で寝るのがいいと思うの。瀧沢さんはとても優しい男性みたいね。だから杏ちゃんも好きになったんじゃないの?」  「え?……は、はい」  「ふふっ、赤くなっちゃって……可愛いすぎるわ、杏ちゃん」  千紗子さんは突然私をキュッと抱きしめると、すぐに離れてから「うふふっ」と笑い、「早くトラブルが解決するといいわね」と言って、優しく私の頭を撫でてくれたのだった。
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