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部屋の中に通されて、びっくりした。
家の外側は黒っぽい重厚感のある造りだったけれど、家の中は天井と壁が白で統一されていて、フローリングもライトブラウンでとても明るい感じ。
ネイビーのソファーや天井から下がっている黄色いダウンライトが、絶妙なさじ加減で差し色になっていて、抜群のセンスが見て取れる。
そして、そんなリビングの中で私の目が一番釘付けになったのは、薪ストーブの暖炉だった。背もたれのゆったりした椅子も置いてある。
ここで本を読んだら、1日過ごせそう……。
「適当に座って」
瀧沢さんに声を掛けられてハッとした。
謝罪の為に室内に入れてもらったのに、またしてもボーっとしてしまった…!
慌ててソファーの隅っこに座らせて貰うと、すぐに瀧沢さんも一人がけの椅子に腰を下ろした。アンも続いて彼の足もとに伏せる。
「本当ならコーヒーでも入れてあげたいんだけど、ごめんね」
「そっそんな……私のせいで怪我をされたのにコーヒーなんて!」
申し訳なさそうに謝る瀧沢さんに慌ててしまう。
それに……
「瀧沢さんがお怒りになるのももっともなんです。私の不注意で瀧沢さんを巻き込んで怪我まで負わせてしまって…わ、私に出来ることがあればお手伝いしますので、何でも言ってください」
「ありがとう。その言葉だけ貰っておくよ。そもそも、さっきも言ったけど、俺は君には怒っていないし、何度も謝って貰わなくても大丈夫だから」
「で、でも、さっき……」
「え?さっきって……」
「……いえ」
「なに?言って」
瀧沢さんは私の顔を真顔で覗き込んだ。優しい声とは裏腹に逃げることを許さないような瞳に、私は変な汗をかきそうになる。
とうとうその迫力に負けて、一言だけ「さっきタクシーの中で…」と呟いた。言いながらその瞳から逃れるように顔を背けた。
「……………」
私の呟きが耳に入らなかったのか、彼は何も言わない。
少しの間沈黙が二人の間に降りた。
沈黙の重みに耐えきれず彼の方を見ると、そこには片手で口元を覆って私とは逆側に顔を背けた姿があった。
その耳は離れていても分かるくらい赤い。
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