12. 全然足りない。

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 その夜、迷いに迷った私は、結局修平さんの部屋のベッドで消灯した。  この部屋の主が今夜ここで眠らないことは、もちろん知っている。彼の手紙に書いてあったのだから。  でも…いや、だからこそ、彼の匂いのする部屋で眠りたくなったのかもしれない。    正直言って私自身、こんなに大胆なことが出来るなんて思わなかった。身内以外の男性のベッドで眠るなんて、出来っこないって。  だけどそれを思い切ってしてしまったくらいに、私は修平さんに会えない毎日が寂しくてたまらなかった。  だいたい、修平さんだけずるいんだもん……私はあなたの寝顔だって見てないんだから…!  心の中で不満を唱える。  彼の方は私の寝顔を見て、少しの時間だけでも一緒に“居る”のかもしれない。けれど私にはその記憶は全くないので、ホテルで別れて以来彼の顔を見ていないのと一緒なのだ。  大変なのは修平さんなのに、彼に文句を言うのは違う気がするけど……。  かすかなシトラスの香りをかぎながら何度目かの寝返りを打って、そんなことを考えたのを最後に、私は意識を手放した。
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