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「~~~っ、んんっ」
噛み付くような性急な口づけ。私のことを捕食しようとするその動きに、為す術もない。
少し前の私なら、その行為にパニックになって泣き出していたかもしれない。でも今は、それすら今彼と一緒にいるんだと実感出来て、胸が甘くうずく。心臓が痛いくらいに締め付けられて、閉じた瞳から涙が滲んだ。
足りないものを補充しあうような口づけが終わった時、肩で息をする私の背中を修平さんが大きく撫でた。
「杏奈……ただいま」
「っっ!おかえりなさいっ、修平さん!!」
耐え切れず涙がこぼれ落ちた。胸の奥の奥から熱いものが込み上げる。
私は思わず彼の首に自分の両手を回して抱きついた。
「ふえっ、……っく、ひっく…」
泣き出した私の頭を大きな手がゆっくりと撫でる。温かい唇が私のつむじに落ちる。
「ううっ、ひっく…う~~っ」
彼の肩に頭を置いたまま涙を流す私を、愛おしそうな手つきで撫でていた彼が、私の前髪をそっとその手でかき上げて、「ちゅっ」と唇を鳴らす。
「杏奈…そんなに泣かないで。俺はもうそばにいるよ?」
「ううっ、だって…わたしのこと、わすれちゃったんじゃないかって、こわかったの」
「忘れないよ、杏奈のこと。仕事中もいつも思い出してた。早く帰って、杏奈を抱きしめたいってずっと思ってたんだ」
「ふえっ、だって、だって……」
意味不明な言葉を言いながら泣きじゃくる私の顔に、修平さんはキスの雨を降らせる。私の瞳からこぼれ落ちる涙を吸い取っては、まだ涙が溢れ出てくる目じりにも口づける。
「杏奈は俺がいなくて寂しかった?」
「~~~っ!!そんなのっ、さみしかったに、きまってるよっ!」
自分でも気付かないようにしていた、自分の本当の気持ちを、投げつけるように叫んだ。
その叫びの最後は、彼の唇によって飲み込まれた。
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