12. 全然足りない。

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 「~~~っ、んんっ」  噛み付くような性急な口づけ。私のことを捕食しようとするその動きに、為す術もない。  少し前の私なら、その行為にパニックになって泣き出していたかもしれない。でも今は、それすら今彼と一緒にいるんだと実感出来て、胸が甘くうずく。心臓が痛いくらいに締め付けられて、閉じた瞳から涙が滲んだ。  足りないものを補充しあうような口づけが終わった時、肩で息をする私の背中を修平さんが大きく撫でた。  「杏奈……ただいま」  「っっ!おかえりなさいっ、修平さん!!」  耐え切れず涙がこぼれ落ちた。胸の奥の奥から熱いものが込み上げる。  私は思わず彼の首に自分の両手を回して抱きついた。  「ふえっ、……っく、ひっく…」  泣き出した私の頭を大きな手がゆっくりと撫でる。温かい唇が私のつむじに落ちる。  「ううっ、ひっく…う~~っ」  彼の肩に頭を置いたまま涙を流す私を、愛おしそうな手つきで撫でていた彼が、私の前髪をそっとその手でかき上げて、「ちゅっ」と唇を鳴らす。  「杏奈…そんなに泣かないで。俺はもうそばにいるよ?」    「ううっ、だって…わたしのこと、わすれちゃったんじゃないかって、こわかったの」  「忘れないよ、杏奈のこと。仕事中もいつも思い出してた。早く帰って、杏奈を抱きしめたいってずっと思ってたんだ」    「ふえっ、だって、だって……」  意味不明な言葉を言いながら泣きじゃくる私の顔に、修平さんはキスの雨を降らせる。私の瞳からこぼれ落ちる涙を吸い取っては、まだ涙が溢れ出てくる目じりにも口づける。  「杏奈は俺がいなくて寂しかった?」    「~~~っ!!そんなのっ、さみしかったに、きまってるよっ!」  自分でも気付かないようにしていた、自分の本当の気持ちを、投げつけるように叫んだ。  その叫びの最後は、彼の唇によって飲み込まれた。
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