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「瀧沢さん?」
意味が分からなくて思わず声をかけた。
どうして彼が顔を赤くして背けているのか、皆目見当もつかない。
「……なさけないな」
少しの沈黙の後、彼がぽつりと呟いた。
「え?今なんて……」
かすかに聞こえた呟きが、自分の聞き間違いだった気がして聞き返した。
すると彼は逸らしていた顔をゆっくりとこちらに向けて口を開いた。
「情けない、って言ったんだ」
瀧沢さんは少し不貞腐れたような顔をして、俯き気味のままこちらを見る。
「助けようとしたのに受け止めきれなくて、自分が怪我して君に罪悪感を持たせてしまった……正直格好悪くて情けなくて……だからタクシーの中で君の方を見れなかったんだ」
耳をほんのり赤くした彼に上目使いにそう言われて。
反則行為だ!―――と声高に叫びたくなった。
「たまたま探してた資料があったから、もう一度図書館に来ていたんだ。階段の下に通りかかったら、本を抱えて降りてくる君が見えて、下から駆け上がって行く子ども達に『危ないよ』って声をかけようとした矢先だったんだ。咄嗟に君を受け止めようとしたところまでは良かったんだけどね……この有様で情けないよ」
な……なんなの、そのギャップ!
優しくて素敵な年上の男性だと思っていたのに、耳を赤くして上目使い……
胸がキューンっと縮んで頬が熱くなるのが自分ではっきりと分かった。
思わず彼の柔らかそうな髪を「よしよし」と撫でたくなってしまい、自分の右手を膝の上でギュッと掴む。
高鳴る胸の音が彼に聞こえそうな気がして、慌てて口を開いた。
「情けなくなんてありません!瀧沢さんが受け止めて下さらなかったら、今頃私どうなっていたか分かりません…骨折じゃすまなかったかも……。瀧沢さんには本当に感謝してます。でも私が本来使うはずのエレベーターを使用していれば、こんなことにならなかったから……」
私は勢いよく立ち上がって、思いっきり頭を下げた。
「わ、私で出来ることがあればなんでも言ってください!助けて頂いたお礼を少しでもさせて下さい。お願いします」
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