12. 全然足りない。

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 彼はベッドの上に私を優しく横たえた。まるで繊細なガラス細工でも扱っているように、そっと。  私を真上から見下ろす彼の上から、月光が差し込む。その明かりが薄暗い部屋の中では逆光になって、彼の表情がよく見えない。  彼の大きな手が私の頬をそっと撫でた。  「杏奈、好きだよ。絶対に優しくする……だから俺に預けて欲しい」  目をギュッとつむって、小さく頷いた。  その私の目元に、彼は「ちゅっ、ちゅっ」と小さなキスを落とす。  額、こめかみ、頬、鼻、瞼、―――顔中の至る所に短いキスを降らせた彼は、最後に私の唇にキスをした。  何度目かの口づけは、最初から熱を帯びていて、さっきソファーの上で交わした続きだと分かる。  もう既に彼の口づけに慣らされ始めた私は、彼の舌の動きに身を任せた。  「んっ、ふあっっ…」  口づけの合間に漏れる声が、自分のものとは思えないくらいに艶めかしい。  羞恥で心臓が爆発しそうなのに、彼の舌が私の口内をなぞるだけで、体から力が抜けていく。ゾクゾクと背中を這う感覚にまたしても腰が痺れていく。  長い時間をかけて口づけを受け続けた私は、体中が燃えるように熱くて、何も考えられなくなっていた。  口づけと同時に私の体をなぞる彼の大きな手も、私を熱の塊にさせてしまう要因だった。
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