12. 全然足りない。

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 「いっっ…」  初めてのその痛みに、思わず声が漏れた。圧迫感と引き攣れるような痛みに、自然と涙が浮かぶ。力を込めて目をギュッとつぶった。  「杏奈、目を開けて。俺を見て」  目元を優しく指でなぞられて、固く閉じていた目をゆっくりと開いた。  すると動きを止めた彼が、少し苦しげに眉を寄せて、私を見下ろしていた。  「ごめん…痛いよな……」  まるで彼自身が痛みを伴っているかのような辛そうな瞳で私を見下ろす。  私は自分の首を左右に振って、彼の言葉を否定した。  本当は彼の言う通りなのだけど、そうしないと、彼がまた私のことを想ってやめてしまうのが嫌だった。  痛みに耐えようと、息をぐっと詰めて両手を固く握る。  痛いくらいに握りしめた手を、修平さんは掬い上げ、そっと指先一つ一つに優しく唇を這わせた。  その柔らかな感触に、私の指が緩んでいく。その隙間に彼の指が滑り込み、絡めるように重ね合わせた。  「ごめんな…もう杏奈が嫌がってもやめてあげられそうにない……」  苦しそうにそう言う彼の目が細められる。明らかに私を欲しがっているその瞳に、私の体の頭からつま先までをキュッと絞られるような、甘い感覚が走った。  「や、やめないで…わたし、大丈夫、だよ……」  「杏奈……」  重ね合わせた手に力を込める。  「私を、ちゃんと、修平さんのものに、してください」  涙に濡れた顔で、彼に精一杯の笑顔を見せる。  彼はハッと息を呑み、その大きな瞳が一瞬潤んだ。    その夜、静かな月明かりに見守られて、私たちはお互いの確かな温もりを分かち合った。
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