13. ハプニングは忘れたころにやってくる!?

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[2]  太陽が西に傾きかけた頃、修平さんは私を目的地まで車で送っていくと言って聞かなかった。  「疲れてるから、今日は家でゆっくりしていて」  そう何度も説得したのだけど、「杏奈といる方が癒されるから」と、彼は頑として譲らず。  かくして私は、彼の車で約束の場所まで送ってもらうことになったのだった。  「予定より、早く着いたけど大丈夫?」  着いたその場所は、この辺では知る人ぞ知る割烹料理店。ここのお料理を父も母も気に入っていて、もう何度か来たことがあった。  「うん、大丈夫。多分いつもみたいに個室だと思うから、早めに入って待ってるよ」  「そっか。今日は実家に泊まるんだよね?」  「うん。そのつもりで両親にも言ってあるの」  残念そうに少し眉を下げて覗き込まれる。まるで尻尾を下げて「おいていかないで」と言う仔犬みたいなその仕草に、私の心臓はきゅんきゅんと音を立てた。  そっと手を伸ばして、彼の頭に置く。  「明日はなるべく早く帰るね……」  なでなで、と手を動かすと、彼の目が大きく開いた。  彼は私の手を掴むと自分の頭から降ろし、私の手のひらに唇を寄せると、手のひらのくぼみをなぞるように動かす。そして最後にペロリと舌で舐めた。  「しゅっ…修平さんっ!」  ここは車の中とはいえ、公衆の面前。まったく人通りのない場所じゃない。    焦った私は、掴まれた腕を自分の方に引き寄せた。
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