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「家でおとなしく待ってるから、杏奈からのご褒美が欲しい」
私の腕を掴んだまま上目遣いにそう言う彼の瞳が、甘く光る。
「えっ?どういう…」
「杏奈から、キスして」
「ええっ!」
思っても見なかった彼からの要望にびっくりする。みる間に顔が赤くなっていく。
「杏奈」
修平さんは催促するように、私の顔の前で瞳を閉じた。
「~~~~っ!!」
彼の甘くてずるいおねだりにあらがうことが出来ない私は、意を決してぎゅうっと目をつぶり、彼の唇に一瞬自分のものを重ねた。
少し触れ合っただけの唇をすぐに離そうと身を引いた時、彼の手が私の頭を引き寄せ、今度は彼の唇で私の口が塞がれた。
幾度も角度を変えて、離れてはくっついて、惜しむように口づけされる。
車の外は明るくてしかも公共の場だ、ということも忘れさせるほどの甘い口づけに全てを忘れて酔いしれた。
「わ、私、もう行かなきゃ……」
やっと彼の唇が離れたその隙に、そう告げる。
「……だね。ごめん、引き止めて」
「ううん。こちらこそ、送ってくれてありがとう。また明日帰る前に連絡するね」
もう一度だけ、そっと唇を合わせた後、私はドアを開けて車の外に出た。
車のドアをゆっくりと締めた瞬間―――。
「杏っ!」
聞きなれた声が遠くから私を呼んだ。
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