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声のした方を見ると、そこには思った通りの人。
足早に私のところまで来たその人は、いきなり私のことを抱きしめた。
「杏っ!会いたかった!!」
「ヒ、ヒロ君!」
抱きついた体を離して、私の額に口づける。
「元気にしてたか?ちょっと痩せたんじゃないか?ああ、あんなことがあったんだから、それはそうだな」
心配そうなその瞳を見ると、私も気が抜けて目頭がじんわりと熱くなってしまう。
「元気にしてたよ。ヒロ君も元気だった?」
そう言ったその瞬間、私の体は後ろから強い力で引き寄せられた。
「杏奈!」
後ろから抱きしめられた感触に振り向くと、怒った顔をした修平さんが。
「修平さん?」
「―――彼女に何の用でしょうか?」
彼は聞いたことのない低い声で、私の目の前に立つ人にそう言った。
「そちらこそ、俺の杏奈に何の用だ」
そう言うと、私の手を持ったヒロ君が自分の方に私を引っ張る。
私の腰に回した修平さんの手が、ピクリとするのが伝わった。その手に力が込められて。
「俺は彼女をここまで送ってきました。あなたこそ、杏奈に軽々しく触れるのはやめて貰えますか」
「ちょっと、待って」
両者が一歩も引かない勢いでにらみ合っている。
「二人とも、落ち着いて……」
二人を何と言って止めたらいいのか分からずオロオロとしてしまう。その間にも、二人の間に険悪な空気が流れていた。
「俺の杏から離れろ」
「杏奈はあなたのものではありません」
「二人とも、私の話を聞いて…」
睨みあう二人は、私の声なんて耳に入ってないようだ。
私の意見なんて聞こうとしない二人に、沸々と怒りが湧いてきた。
「いい加減にしないと、痛い目にあうぞ」
ヒロ君が凄むと
「ええ、どちらが痛い目を見るか試してみたら分かりますよ」
負けずに修平さんが、地を這う様な低い声でそう答える。
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