13. ハプニングは忘れたころにやってくる!?

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[3]  お店の駐車場に修平さんが車を停めたあと、二人でお店の引き戸をガラガラと開けると、両親は先に入っているようで、奥の個室に案内された。  「こちらでございます」  履いている靴を脱いで畳敷きの個室に入ると、父と母はもう席に着いている。このお店の個室は和室だけど、テーブルとイスで食べるスタイルになっている。  いつもなら、部屋の窓からはこじんまりとした和な雰囲気の庭が見えて、緑や花が目に入るからとても落ちつくことのだけれど……。  私たちは部屋に入ると、父の前に修平さん、母の前のに私が座ることに。  私はすぐに椅子を引いて座ったけれど、となりの椅子に修平さんが座る気配がしなかったので、彼の方に顔を向けた。──と、その時。  「先ほどは、大変失礼いたしました」  修平さんは深々と頭を下げながらそう言った。  「修平さん……」  「瀧沢さん、顔を上げてください。とりあえずおかけになって。ゆっくりとお話を伺いたいですので」  修平さんに着席を勧める母の隣で、父が不機嫌そうにそっぽを向いている。  「ありがとうございます。改めまして、杏奈さんとお付き合いさせていただいてます、瀧沢修平と申します」  修平さんは着ているジャケットの内ポケットから、名刺を取り出して、父の前に差し出した。  父は差し出されたそれを、渋々といったふうに受け取り、そこに目を遣る。  「株式会社TAKI建設……地元に本社を置く有名な建設会社じゃないか……」    びっくりする父の横から、母が名刺を覗き込む。  「TAKI建設の、瀧沢さん……てことは?」  「おそらくご想像の通りかと」  三人の会話に着いていけず、「???」と首を傾げてしまう。  そもそも、私は修平さんの名刺を見たことがない。一緒に暮らす上で必要なことではなかったし、特にどこの会社のどんな役職かなんて疑問にも思わなかった。  私にとっての修平さんは、『居候先の家主で、アンジュの飼い主、…そして私の好きな人』 それだけだ。
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