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「そう言えば、私たちの紹介がまだでしたね。杏奈の母の宮野由香梨です」
「父の隆弘だ」
母は全然いつも通りなのだけれど、父の機嫌は下がり切ったまま。
私は内心ハラハラしているけれど、三人の遣り取りに口を挟めずにいた。
「先ほどは、隆弘さんが杏奈さんのお父さまだと存じ上げずに、大変失礼いたしました。杏奈さんのお父さまがこんなにお若いとは思わなかったので……」
ムッツリしている父の隣で、母が「クスっ」と笑う。
「杏奈はこの人のことで、瀧沢さんに何かお話しませんでしたか?」
「お父さまは喫茶店を経営されていて、杏奈さんの珈琲と洋食作りの師匠だと伺っております。お父さまの珈琲は世界で一番美味しい、と」
「そうか、杏がそんなことを……」
父の目元が少し和らぐ。
私は父の態度が少し軟化したのを見計らって、すかさず言葉を挟んだ。
「そうだよっ!ヒロ君の珈琲、最近飲んでないから帰ったらまた入れてね」
「もちろん。杏の為に一番いい豆で淹れるぞ」
父が私を見てニコニコと言った。
母は修平さんに視線を送ると「ふふっ」と笑ったあと言った。
「仲が良いでしょう?この二人」
「はい。ちょっと妬けるくらいです」
あながち冗談ではないような修平さんの発言に、私は思わず隣の彼を見てしまう。
「そうですね、昔から主人は目に入れても痛くないくらい、杏奈を溺愛しているんですよね」
「そうでしょうね。杏奈さんは幼い頃も、きっと天使みたいに可憐だったんでしょうね……隆弘さんが羨ましい」
「うふふっ。でもこの二人に血の繋がりはないんです」
「えっ!?」
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