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「瀧沢さんはお幾つなんですか?」
母の問いに「二十九になりました」と修平さんが答える。
そうして自己紹介が終わった頃に、料理が運ばれてきた。
「うわ~綺麗!それに美味しそうっ!」
彩りよく盛り付けられた繊細なお料理は、どこから箸を付けたらいいのか迷ってしまうくらい芸術的だ。
「急にお邪魔してしまったのに、私の分までありがとうございます」
「こちらからお誘いしたんですから、遠慮なさらないでください。それに『俺』で構いませんよ」
申し訳なさそうに頭を下げる修平さんを見て、母が楽しそうに「ふふっ」と笑ってそう言った。
サッパリとして肝の座った性格の母は、娘の『初彼』を見ても動じることはないみたいだ。
反対に父はやっぱり不機嫌そうにしている。
「そういえば、お母さん。突然人数が増えて、お店の方は大丈夫だったの?」
「ええ。すぐに席とお膳の手配をしてくれて、問題なかったわよ」
「そっかあ、それは良かった。ここのお料理、とっても美味しいから修平さんに食べて貰いたいなって思ってたの!」
「ありがとう、杏奈。──ご家族水入らずのところにお邪魔してしまってすみません」
修平さんは私に微笑んだ後、前を向いて再度丁寧に頭を下げた。
「そうだ。せっかく由香梨さんと杏に挟まれて両手に花だったのに……」
「ヒロ君!」
修平さんがこんなに丁寧に謝ってくれているのに、いつまでも感じの悪い態度を取り続ける父に少しイラッとする。
「主人はこんな風に言っておりますが、気になさらないでくださいね。誘ったのはこちらなんですから」
苦笑しながら母がそう言ってフォローしてくれたので、私は荒げそうになる声を呑み込んだ。
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